櫛草紙


山崎ハコ~流れ酔い唄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦前の女の子は

櫛を選ぶときに

 

櫛の歯を一つ一つ

 

(か・ぬ・ひ・も・と・・・)




と数えて選んだとか











『か』・・・(買った)

 

『ぬ』・・・(盗んだ)

 

『ひ』・・・(拾った)

 

『も』・・・(貰った)

 

『と』・・・(とった)










ともかく






『か』・・・(買った)

 

『も』・・・(貰った)






この二つを捜して

選んでいたらしい





くだらない子供の迷信、戯言・・・

といってしまったらそれまでだが




そんなちっぽけな事柄にも

古き良き日本人の奥ゆかしさ

清潔さを感じてしまう

















小学生の頃に

 

国分一太郎という人の




『カヌヒモトの想い出』




という本を読んだ・・・






正確には読まされた









先生が出張か何かで

自習となり

そのときに

プリントに刷られて

配られたものだった








主人公の女の子がお祭りの出店で櫛の歯を(カヌヒモト・・・カヌヒモト)と数えながら選んでいる。そのときに下級生の男の子が虫眼鏡を万引きするのを目撃してしまう。すると年長の男の子が現れてそれを咎める・・・彼女は一緒に謝りに行きお金を出してあげる。その後2人は結ばれて子供も授かるが、夫は戦死するといったような内容だったと思う。










三十年も前に

気まぐれのように配られた

自習用のプリント・・・

その中に書かれていた話を

何故ここまで強く憶えているのか

よくわからない







(カヌヒモト)という

アイヌの言葉とも思えるような

響きなのか?






(櫛)といった

古式ゆかしい小道具への

憧憬なのか?






祭りの夜に付き物の

淡い郷愁のイメージなのか?








いずれにしても

細かいプロットはすでに

忘れてしまったが




この話全体に漂う




(切なさ)





そのイメージに

今もって強く

惹きつけられてしまう




か・ぬ・ひ・も・と・・・

 

か・ぬ・ひ・も・と・・・

 

か・ぬ・ひ・も・と・・・






数字にしてしまえば

無味乾燥

一つ一つが意味を持たぬ

(記号)と化してしまうが







数え歌の類には

必ず(切なさ)が伴っている