再会


Tom Waits - Martha (Rare Live Performance - Denver, CO 1974)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近押し入れの中から引っ張り出しておいた
「O・ヘンリ短編集」(新潮文庫全3冊)を
昨夜の雨の音をBGMにして読んでみた。

貧乏暮らしの夫婦がお互いのクリスマス・プレゼントを買うために女房は綺麗な長い髪を切って売り、亭主は大事にしていた懐中時計を売って金をつくる。クリスマス当日にプレゼントを交換してみると女房からのプレゼントは亭主の大事にしている懐中時計用の鎖、亭主からのプレゼントは女房の綺麗な長い髪に似合う櫛であったという「賢者の贈り物」。

病院の窓から見える木の葉が全部落ちてしまったら自分の命も無くなるだろうと思い込んでいる少女、葉はやがて一枚を残すのみになる、しかしその葉はいつまでも落ちず、少女の病気はよくなる、その葉は肺炎で苦しむ画家が少女を生かすために悪天候の中で命がけで壁に描いた
絵の葉であった、画家は少女の代わりに命を落としてしまう・・・「最後の一葉」

「O・ヘンリ」の名は知らなくとも、これらの話を聞いたことがある人は多いと思う。絶妙なプロットとテンポ、そして意外な結末がO・ヘンリー作品の持ち味であるが、彼の本を開けた瞬間に「ニューヨーク」が広がるのである。現代の「ニューヨーク」ではなく古き良き、平和な20世紀初頭の「ニューヨーク」である。
作品を読んでいるだけでは昔のニューヨークであると気がつかないかもしれない。おそらく日本では「日露戦争」の頃なのだろうが日本からは考えられないくらい当時のニューヨークはすでに成熟した都会であったようだ。

私は「振り子」という作品が好きである。愛する女房と暮らす男がいて彼は何時に仕事にでかけ、何時に帰宅、何時に食事、何時に寝る、そんな時計の振り子に合わせたような生活にいやけがさして一人家に残されるのは嫌だという女房を置いて夜の街にでかけるようになる。ある日彼が仕事から帰ると女房からの置手紙が置いてあり「遠くに住む母親が倒れたので看病に行く・・・長引くかもしれない」としたためてあった。亭主は一人家に残される寂寥感、女房がいない欠落感を強く感じ、今までの自分を猛省する。そして今度女房が戻ったら優しくしてあげようと心に誓う。そう思っている矢先に「母親の病気は大したことなかった」と女房が戻ってくる、その途端、亭主は「行ってくるよ」と夜の街に再び出かけていくのである・・・。


昔に読んだ本を再び読むと旧友と再会したような気分になる。そこには最初に読んだ時と同じ世界が待っていてくれる。20年位旅に出て実家に帰ると自分の部屋をそのままの状態で残しておいてくれた・・・そんな喜びを感じさせてくれる。しかしながら部屋は昔のままで変わらなくても自分自身は成長して歳をとっている。当時見えなかったものが見えたり当時感じなかったものを感じたり・・・その逆もある。読書もまさにこれと同じである。

部屋がなくなっていたら戻る場所もないであろうし、本を捨ててしまっていたらこのような歓びを味わうことはできなかったであろう。この「再会」に心から乾杯したいと思うのである。

今宵、酒でも飲みつつ再び20世紀初頭のニューヨークに潜りこもうかと考えているのである。「振り子」の亭主が夜の街に出かけたように・・・。