夜の鈍行列車

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
飲み終えてふらりと乗り込む鈍行列車の雰囲気が好きである。気持ちよく酔った人、気持ち悪く酔った人、飲まずに残業をしていた人、様々な人が乗り込んでいるが、共通するのはみんな疲れ切っているということだろうか・・・。したがって車内は弛緩した空気が漂っている。口を開けて眠っている人、つり革にもたれてかろうじて立っている人・・・etc、そんな人達を観察している自分自身相当だらけて弛緩しきっているのかもしれないが・・・。 

朝の通勤列車と違い夜の電車は「家」に向かっているということもあってか、こころなし乗客の顔も和やかなようにも思える。もちろん中には酒癖の悪い輩もいるが・・・。 

自分で歩いたり、車を運転したり、何か行動しているときはよいのだが、電車に乗り込み、すべてを他人にゆだねているときは時間が長く感じられてイライラしてしまうものである。通勤の時、遅刻しそうな時などは特にそうである。これも二十世紀にできた新手のストレスなのだろうが・・・・。 

かつては日本の通勤ラッシュ時の列車内の人間の密度は奴隷貿易の奴隷船以上だと聞いたことがある。そして朝には座席をたたんでしまうような列車も登場したが、これではまさにアウシュビッツ行きの列車のようだ・・・。 

文明が進歩すればするほど時間ができて快適になるはずなのに人間の欲望はその時間をさらに侵食してしまう。そして新たにより重いストレスの元をつくってしまう。しまいにはそのためにつぶされてしまうように思えてならない。 

夜の鈍行列車で見られる弛緩しきった顔の群れ、笑ってしまうのは簡単であるが、その奥に潜んだ日本社会の病巣というのは本当に恐ろしいものがあるのかもしれない。せめて家に向かっているときくらいは仕事のことを忘れて穏やかな夢が与えられてもいいではないか、と思うのである。布団に入って眠ってからも仕事は夢の中まで追いかけてくるのであるから・・・。