RAINY MONDAY あの日 躍った赤い傘


Carpenters - Rainy Days And Mondays

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌の世界では『月曜日』と『雨』の取り合わせは多いようである。ブルースの『Stormy Monday』、カーペンターズの『Rainydays and Monday』・・・etc、探せばもっと出て来るであろう。恐らく『月曜日』と『雨』の憂鬱さを重ねて曲の題材にしていたのかも知れない。 

通常ならば月曜日は週の始まりで学生にしろ勤め人にしろ憂鬱な気分の人が多い。しかしながら私は勤め始めた頃月曜日が休みであった。かつての私の職場は週休二日で各自休みが違っていた。それゆえに女性と付き合い始めても二人とも二日ある休みがすべて合わないということもありうる。その点は声をかける前にチェックする必要があった。当時付き合っていた女性は火曜日が休みであった。彼女は私鉄沿線の小さな駅の近くに住んでいた。月曜日の夜、私はその私鉄の駅の目の前にある喫茶店で彼女の帰りを待つのが常であった。その喫茶店の入り口のドアはガラス貼りの自動ドアなのだが、真中部分に飾りの壁紙調の模様が付けられていて店の前を通る人は脚しか見えなかった。私は苦いコーヒーをすすりつつ本を読んだり、店の前を間断なく通り過ぎる人影をを眺めていた。数々の脚を眺めながらジャズ・ピアニストのソニー・クラークの名盤『クール・ストラッティン』のジャケットを思い浮かべたりしていた。そして彼女の脚が自動ドアの前で立ち止ると、まるで帰った飼い主を見上げて精一杯尾を振る犬のように素直に喜んだものだった。 

一年ちょっと付き合った彼女は突然田舎に帰ることになった。しかしながら私は楽天家であった。何よりも当時は若かったので悲壮感などまったくなかった。最後に逢ったのは花が散ったちょうど今頃の雨の月曜日・・・昼下がりであった。私は先に席について彼女がやってくるのを待っていた。彼女の脚がドアの前で立ち止り、たたんでいるのか自動ドアのガラス越しに赤い傘が踊っていた。いつもより中に入って来るまでに時間がかかった。それゆえに自動ドアがスクリーンのように彼女の姿を写し出していた。今も映画の一場面のようにその光景を想い出すことがある。そのくせその日に彼女と何を話したかはすっかり忘れてしまった。多分深刻で悲壮感の漂う彼女が持ち込んだ重たい空気を『いつでも逢えるから・・・』などと言って笑い飛ばしてしまったような気がする。 
話しているうちに雨はあがり初夏を思わせる陽射しが入り口の自動ドアから差し込んでいた。その頃すでに私は彼女の持ってきた重たい空気を『詐欺師』の如く巧みに椅子の下に隠してしまっていた。やがて荷造りが残っているというので彼女は先に帰って行った。お互い最後に笑顔の余韻が残った。しばらくして私が帰る段となって傘立てに彼女の赤い傘が残されていることに気づいた。他の人に持って行かれたり捨てられてしまうのも忍びないので、いつかまた逢うときに渡そうと私が持ち帰った。 

結局渡す機会は訪れなかった。その赤い傘は私の中で彼女が行方不明になると同時にどこかに消え去ってしまった。傘立てに一本だけ残された赤い傘が惜別の花束のように思えた・・・。 

月曜日の雨というのはやりきれないものだ。